汎用機材使用レビュー

 有機合成化学の研究室で必ず必要となる機材は各メーカーから販売されていますが、性能と価格が様々で新規購入の際は迷います。価格の安さだけで選ぶと、使い難かったり、安定して機能しなかったり、すぐに故障したりと、結局損をすることになります。こういった情報は人づて以外の方法で手に入ることはほとんどありません。多くの場合は安全策をとり、これまでに使用していた機材と同じ物を購入という選択肢をとります。このような背景から、参考までに研究室で使用している汎用機材について使用レビューを掲載することにしました。

1.マグネチックスターラー
2.エバポレーター
3.ダイヤフラムポンプ
4.分析用(0.1mg)天秤
5.乾燥機(低温・大容量)


(1)EYELA・N-1000

 低価格ということもあり、大学ではEYELAのエバポレーターが最もよく使用されていると思います。価格も標準的なセットで15〜25万と安く、現在では同型品が他会社から販売されているほど国内スタンダード製品です。
 縦型冷却管モデルでは真空シール部分に有機溶媒が溜まりやすく、減圧除去する化合物によっては真空シールがすぐ劣化します(速い場合は数ヶ月)。有機溶媒が溜まらないような冷却管角度で運用するか、溜まったら角度をいじって排出するほうが長期間シールが保てます。腐食性の揮発性有機化合物、特に塩化チオニルは要注意であり、減圧除去した後は速やかに洗浄したほうがいいです。標準の真空シール2枚で1万円前後なので、年間を通すとそれなりのランニングコストになります。
 標準の真空シールに対し、1枚1万円前後と倍の価格となる新しいオールテフロン製の真空シールも販売されており(写真左下と右下)、旧モデルでも使える規格です。3台中2台に使用していますが、長期間使用しても目立った劣化は見られず、倍の価格の価値はあります。欠点として、テフロン製で固いためにガラスジョイント回転部にわずかな隙間ができやすく、これにより減圧度が若干低下したり、真空シール部分に有機溶媒が溜まると有機溶媒がエバポレータの回転駆動部に侵入し、ギア部のグリースの染み出し、金属部分のサビ発生などのトラブルが発生します。
 EYELAの他の機材にも共通で見られる特徴ですが、塗装が弱く、少しずつ塗装が剥げたり、金属部分が錆びてきます。以前、台座がボロボロになったので、白色スプレーで塗り直しをしたことがあります。写真左上のウォーターバスも隙間から結構な量の金属粉が落ちてくるので、中身はボロボロかと思います。
 また、よくある故障とのことですが、エバポレーターのジャッキを上下する内部バネ(内部を見るとゼンマイのようなバネが入っている)が折れ、ジャッキを上下できなくなる症状がこれまでに2例発生しました。1台目は購入10後、2台目は購入5年後の発生です。ウォーターバスをジャッキで上下する方式に変更して対応していますが(写真右上)、カタログにはジャッキのみの価格は掲載されておらず、購入できないのかもしれません。現在、研究室には旧モデルも含めて3台、EYELAのエバポレーターがありますが、「新しいものほど壊れやすい」という、ユーザーにとっては非常に嬉しくない耐久性です。ジャッキが壊れやすいので、故障しても問題無く使用できるよう、ウォーターバスをジャッキで上下できる組み合わせを選んだほうが長期間の運用に耐えます(写真右上)。
 いろいろ書きましたが、国内スタンダード製品としては充分な性能で、普通に使う分には特に問題ありません。

  

  

(2)EYELA・N-1
 (1)の旧モデルエバポレーターです。基本的な性能は同じですがジャッキの種類が違っています。私が購入した物ではないので正確な購入時期は不明ですが、1996-1997年くらいと思います。(1)のジャッキが壊れても、更に古いこちらは全く故障しておらず、丈夫です。ジャッキ自体の塗装も(1)ほど剥げていません。

 

(3)ビュッヒ・R-200
 ビュッヒのエバポレーターはEYELAよりも高価であり、同等の標準的セット価格が25〜45万ほどします。ただ、このエバポレーターは元々学生実験室にあったのですが、有機化学実験で使い方を説明する際、異なるメーカー・型番が混在(3種)していると説明が非常に面倒で学生も理解できないので、私の研究室にあったEYELAのエバポレーター一式と交換しました。購入した訳ではありません。以前からビュッヒのエバポレーターに興味はありましたが、とにかく価格が高いのが欠点でした。かつ指定のウォーターバスが必ず付属し、台座にフィットするように作られているため選択の自由度が無く、結局EYELAを選択していました。
 旧モデルのR-200ですが、使用してみると製品自体の各部品はよくできており、海外メーカーらしくデザインも洗練されています。ただ使用においては自由度が低く、時折使い難い状況がでてきます。まずジャッキの上下可動範囲が小さく、トラップを挟んで大きなフラスコを接続するとスペースに余裕が無くなります。かつ角度調整の範囲、特にフラスコを立たせる側への調整範囲がほとんど無いので、フラスコを立て気味でエバポすることはできません。一方、回転部分はEYELAのようにガラスジョイントを上まで貫通させて回転させる方式ではなく、ガラスジョイントを回転部にくっつける方式です(写真右を見るとジョイントが貫通していない)。そのため冷却管周辺の設置と調整を適当に行うと、結構な量の凝縮した溶媒がそのまま戻ってきます(トラップ球を付けていればそこに溜まる)。白いチューブが内部に入っていますが、凝縮液を確実に下部に誘導するための措置です。カタログを見ると、現モデルではEYELAのようにガラスジョイントを上まで貫通させて回転させる方式になっているので、この不具合が解消されているようです(その代わり真空シールは必須)。

  

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