汎用機材使用レビュー

 有機合成化学の研究室で必ず必要となる機材は各メーカーから販売されていますが、性能と価格が様々で新規購入の際は迷います。価格の安さだけで選ぶと、使い難かったり、安定して機能しなかったり、すぐに故障したりと、結局損をすることになります。こういった情報は人づて以外の方法で手に入ることはほとんどありません。多くの場合は安全策をとり、これまでに使用していた機材と同じ物を購入という選択肢をとります。このような背景から、参考までに研究室で使用している汎用機材について使用レビューを掲載することにしました。

1.マグネチックスターラ
2.エバポレーター
3.ダイヤフラムポンプ
4.分析用(0.1mg)天秤
5.乾燥機(低温・大容量)


(1)小池精密機器製作所(KPI),ヘラクレス マイティ・スターラー HE-16GB
 磁力が強く、低速〜高速で非常に撹拌が安定しています。価格は若干高めの5万前後ですが、他の通常のスターラと比較して納得できる価格です。更に強い磁力のスターラーも販売されていますが、特殊な用途でなければこのスターラの磁力で充分かと思います。中心から上下左右に離れても磁力が効いているので、オイルバス、マントルヒーター、ドライアイスバスで底上げしても、複数個のフラスコを並べても、撹拌子が安定して回ります。天板はベークライトで耐薬品性と耐熱性もよく、特に気を遣わず長期間にわたって使用し続けることができます。前面パネルのスイッチ類のプラスチックが有機溶媒に侵されやすく、大量にかかると固まってしまうのが欠点です。

  

(2)矢沢科学,マグネチックスターラ KF-22
 (1)と比較するとわずかに磁力は弱いものの、低速〜高速で非常に撹拌が安定し、よいスターラです。そのわりに価格が少し安く、コストパフォーマンスに優れています。中心から上下左右に離れても磁力が効いているので、オイルバス、マントルヒーター、ドライアイスバスで底上げしても、複数個のフラスコを並べても、撹拌子が安定して回ります。天板はステンレス製なので、次第に少しずつ錆が見えてきます。また、高温で加熱撹拌するような用途では本体に熱が移りやすく、モーター故障の原因となるので、その際はセラミック板を挟んで放熱したほうが無難です。モーターのみ別途購入して修理したことがあります。
 よくあるトラブルは金属が擦れる異音の発生で、小さい異音は底のモーター軸が原因であり、潤滑油を流し込んで解消しました。大きい異音は内部撹拌子のメッキ剥がれが原因で、剥がれたメッキが天板と擦れて異音が発生していました。天板を外し、内部撹拌子の剥がれかけたメッキを全て除去し、錆をある程度除いた後、薄くシリコンコーティング剤を塗ることで修理しました。

 

(3)矢沢科学,マグネチックスターラ KF-10
 位置づけとしては(2)の小型版ですが、その分磁力も弱くなっています。磁力のカタログ値は(2)と同程度なのですが、たぶん搭載磁石の大きさが違うのではと思います。中心から上下左右に離れると磁力の効きが悪くなるので、加熱冷却で底上げが必要な時、複数個のフラスコを撹拌する際、(2)と同じように撹拌しないことがあります。とはいえ安価なスターラとしては強めの磁力であり、低速〜高速での撹拌も安定しています。天板はステンレス製なので、次第に少しずつ錆が見えてきます。また、高温で加熱撹拌するような用途では本体に熱が移りやすく、モーター故障の原因となるので、その際はセラミック板を挟んで放熱したほうが無難です。小型なので蒸留の際、脇に受器フラスコを落としこみやすいという長所があります(写真右)。(2)に同じくコストパフォーマンスに優れたスターラです。

  

(4)IKA,RCTベーシック IKAMAG
 ホットプレート及び加熱制御装置(外部センサー)の付いたホットスターラです。磁力はあまり強くない(普通)のですが、撹拌は低速〜高速で安定しています。価格は10万前後ですが、スターラ+他の加熱装置+温度制御装置(サーモスタッド)をそれぞれ別々に購入しても、最終的に同程度の価格になるかと思います。標準で付属している外部センサーによる温度制御機能が優秀で、オイルバスを使用すると温度が±1℃で安定します(写真中央)。別売オプションの制御装置を使用すると±1℃以下の温度制御が可能とのことですが、通常の有機合成の場合は標準の±1℃で充分です。精密な温度が必要でなければサンドバスを使用することもできます(写真右)。ホットスターラとしては非常によくできた製品だと思います。

   

(5)IKA,C-MAG HS7 digital
 (4)と同様の機能、ホットプレート及び加熱制御装置(外部センサー)の付いたホットスターラです。2019年3月時点での価格は(4)より少し安く、標準で外部センサーによる温度制御機能が付属しています。ただ天板がセラミックのためと思われますが、暖まり難く冷め難く、温度制御が(4)に比べてやや緩慢で、安定化するまで時間を要します。ホットスターラとしては非常によくできた製品だと思います。
 2019年3月時点での価格は(4)より少し安い程度ですが、発売当初の定価は(4)の半額以下でした。当時、外部センサーでの温度制御機能が付属しての前述価格を見た時は驚愕し、付属品と価格を再確認して発注したことを覚えています。その後、価格の上昇が続き、現在では(4)との価格差は小さく、むしろ(4)を購入した方がよいかもしれません。
 変わった使い方ですが、ホットスターラーで耐熱性があることから、この上に高温用オイルバスを置いて200-250℃で加熱撹拌したことがあり、その際は非常に役立ちました。このホットスターラ上に直接オイルバスを置いて加熱しても、200-250℃の温度制御は放熱のため実現困難です。そこで保温性のあるステンレス製の温度制御機能付オイルバス(EYELA, OHB-1100S)を使用するのですが、通常のスターラを使用すると熱でモーターが故障します。加熱していないホットスターラ上に前述のオイルバスを置いて使用することで、熱によるスターラの故障を防ぐことができます。

  

(6)IKA,C-MAG HS4
 ホットプレート及び加熱制御装置(内部センサー)の付いたホットスターラです。(4)(5)は標準で外部センサーが付属していますが、こちらはオプション扱いで、それを別途購入するよりは直接(4)(5)を購入するべきです。厳密に温度制御する必要の無い実験、例えば還流には充分な機能で、溶媒の沸点より高めの温度を設定し、上にフラスコを置けば還流できます。オイルバスを使用したい場合でも、ある程度慣れてくると天板の設定温度とオイルバス実温度の関係がわかってきます。周囲環境の変化で少し幅は生じますが、ある設定温度で使用することも可能です。
 学生実験(有機化学)では少し大きいHS7を使用しています。有機溶媒にバーナーは使えませんし、授業の性質上オイルバスも使い難いので、このタイプのホットスターラが役立っています。

  

(7)IKA,カラースクイッド IKAMAG
 普通の小型スターラです。安価ですが、同価格帯の(3)と比較すると磁力は弱く(普通)、加熱冷却で底上げが必要な時、複数個のフラスコを撹拌する際はうまく撹拌しないことがあります。撹拌は低速〜高速で安定しているので、基本的には1つのフラスコを撹拌する際に用いるスターラです。天板はガラス製なので耐薬品性は抜群、本体のプラスチック部分も有機溶媒に耐えます。(3)のほうが性能的に使いやすいですがデザイン的にはこちらのほうがよく、現モデルには回転数表示機能が付属しています(写真左)。旧モデルには付属していませんでした(写真右)。普通に使用する分には安心して使用できるスターラです。

  

(8)東京硝子器械(TGK),Fine F101N
 私が新潟大学に来る前に導入されていた普通の安価なスターラーです。同価格帯の(3)(7)と比較すると性能は見劣りします。撹拌モーターが「くまとり型」ということもあり、低速での撹拌ができません(カタログ値は300rpm以上から)。そこである程度速く撹拌すると磁力が弱いので撹拌子が暴れやすくなり(撹拌子とフラスコの形状にもよるが)、使い難いところがあります。研究室ではサブ的な位置づけで使用してます。

 

(9)アサヒ理化,AMG-S
 新潟大学に来る前に導入されていた高価格のパワースターラです。(1)と同様に磁力が強く、低速〜高速で非常に撹拌が安定しています。大きいのが欠点で実験台上で場所を取ります。

 

(10)その他

 その他、私が新潟大学に来る前からあったスターラー、退職される先生から頂いたスターラーなどは写真だけ掲載します。

   

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