研究概要
太陽電池などの光エネルギー変換技術、光免疫療法などの光医療技術など、分子と光の相互作用に基づく技術が重要性を増しています。光反応の速度や効率は、途中で生じる短寿命(ナノ秒~マイクロ秒の)中間体の反応によって支配されます。その中でも私たちはラジカル対や励起三重項といった「電子スピン」をもつ中間体に着目して研究を行っています。これら中間体のスピンの運動を、冷蔵庫のマグネット程度の低磁場で制御することにより、反応効率を大幅に変化させることができる場合があります。私たちは独自の時間分解測定法を用いてスピンの観点から光反応のメカニズムを解明します。これにより、より優れた材料を開発するための提案を行います。さらに、磁場による太陽電池の高効率化や、光と磁場を用いた医療技術など、新たな材料技術創生を目指して基礎研究を行っています。
有機太陽電池の電荷動力学と磁気制御
軽量で安価に作れる有機薄膜太陽電池は、次世代太陽電池として注目されています。光生成した電荷の再結合やトラップ(電荷が膜内のどこかに引っかかって流れづらくなってしまうこと)が効率を下げる要因と言われています。我々は太陽電池や光伝導素子の状態で時間分解分光と電気伝導を同時計測するSimultaneous Optical and Electrical Detection (SOED)法を開発し、電荷の数(濃度)と流れやすさ(移動度)がどのように時間変化するか定量的に測定することに成功しました(T. Miura et al. J. Phys. Chem. C 125, 2021, 22668.)。この手法を用いた磁場効果観測にも成功していて、従来の分光測定や素子評価からは分からなかった、「スピン状態依存的な」電荷の生成・消滅機構が明らかになりつつあります。低磁場で太陽電池を高効率化する技術の創生に向けて、機構解明研究を行っています。
量子動力学療法に向けた光・磁気応答ナノカプセルの開発
抗がん剤等、強い副作用を持つ薬剤を狙った患部に選択的に届けるドラッグデリバリー技術が注目を集めています。一方で、光などの外部刺激によって薬剤活性を制御する光医療技術も近年発展しており、光免疫療法はその一例です。我々は、光と磁場によってナノカプセルからの薬剤放出を三次元的に精密制御する新たな医療技術、「量子動力学療法」を提唱しています。ナノカプセルに埋め込んだ有機分子の光電子移動反応をトリガーとしてカプセルの破壊を引き起こし内容物を放出できれば、ラジカル対機構に基づく再結合の磁気的制御が可能になり、放出量の制御も期待できます。量子動力学療法の動作原理確立に向けて、ドナーアクセプターを埋め込んだ親水性ナノカプセルの開発と分光評価を行っています。
共同研究募集中
有機半導体、太陽電池関連
有機半導体薄膜材料、および太陽電池素子のSOED測定により、光生成電荷キャリアの再結合およびトラップ過程の定量評価が可能です。特に本手法オリジナルのデータとして、平均移動度の時間変化が取得可能です。さらに、温度依存性や磁場依存性の測定・解析により、詳細な機構解明に貢献します。
ドナーアクセプター連結系、その他光機能材料
溶液や固体薄膜試料のナノ秒過渡吸収、光電気伝導、発光等の時間分解測定が可能です。過渡吸収装置は市販装置を大幅に上回る感度がありますので、低濃度または低励起光強度での測定が可能です。また、全ての測定で磁場効果が計測でき、スピン化学理論に基づく磁場効果のシミュレーションも可能です。
三浦 智明 准教授
〒950-2181 新潟県新潟市西区五十嵐2の町8050
総合研究棟(物質・生産系)609号室 TEL: 025-262-7738
Mail: t-miura[あっとまーく]chem.sc.niigata-u.ac.jp